歩き続ける足を守る(モービリテイを考える・女性のひろば2017年9月号)

 霊長類の仲間のヒトは4本脚から2本の脚で立ち上がって手が自由になり脳が発達し言葉ができて人間になった。2本足で歩く人間が腰痛に苦しむのはその時からの運命なのだろう。

 首に7個、胸に12個、腰に5個の臼型の椎体骨とクッションの役目の椎間板で構成される脊柱は緩やかなS字状の曲線で重力に対して人体を支えている。椎間板の寿命は60年だという。歩きだして60年 還暦後は賞味期限の過ぎた背骨を軸に暮らしていることになる。関節や筋肉の柔軟さを維持し動かし続けるには“お手入れ”が必要である。
関節(背骨・仙腸関節・股関節・膝・足首)を大きく動かす、体を支える筋肉が弱らないように使うことを暮らしの中で意識したい。一カ所でも痛いところができると動き方が違ってくる。床に大の字になって5分間天井のシミを眺めてみよう。本当に痛い所と無理にかばって動くことで痛めた場所(二次性疼痛)の違いがわかってくる。痛めた関節や筋肉の治療は専門家に相談していただきたいが無理をして悪化させた場所は力をかけずにゆったり動かすことで収まるようだ。何がなんでも歩くと痛い所を増やしてしまう。まっすぐ立って重心を感じながらゆっくり歩く 痛むときは休憩する 運動は体重をかけずにすむ(水中、座位、仰臥位等)形でやってみよう。転がる(芋虫ごろごろ)やハイハイもいいかもしれない、最初の一歩はハイハイをしっかりした子が上手だったものだから。

 痛みを我慢して無理に動くと怪我がつきもの、安全な移動のためには大げさと思っても補助具も使おう。杖(バランスを考えると2本杖やシルバーカーも)車いすも押してもらうだけでなく自分で押して歩いて疲れたら椅子に早変わり と思うと場所によってはずいぶん役立つ。まだそんな年では・・・と頑張るよりは安全に目的地にいってやりたいことができる自分を守るための道具として考えてほしい。

 そして一番大切な歩くための道具は靴である。素足文化の日本人は靴の選び方も履き方もずいぶん下手だ。ぴったりの靴をきっちり履くことで胼胝は消えるし膝や腰の痛みも軽くなる。脱ぎ履きの楽な大きな靴は手間を省いて足をいじめている。靴を足の味方にして歩いてほしい。

 自分の力で思ったように移動できる力(モービリテイ)は生きる上で大きな要素である。車(自分で運転、他者が運転)、公共交通機関、自転車、徒歩をいろんな条件で組み合わせて私たちは移動しながら暮らしている。自由な移動が保障される仕組みは自分らしく生きることを考えた時とても重い課題だ。

 還暦を控えて左右の股関節の人工関節への置換術を受けた私は普通に歩けない数年を経験して今は人並みとはいかないが去年の私よりは少し歩ける自分がうれしくてたまらない。

 元気を守る為のおすすめは 今の日常にプラス一日合計30分(1回3~5分でいい)
全身を力いっぱい意識的に動かすことだ。