コロナ禍の中の出会いから1冊の本が生まれました。命が生まれ育っていく”不思議”な営みに”健やかな”日々を願って出来ることは?
”障害”をもつことではなく”障害”のためにおきる”暮らしの歪み”が不幸であると思います。
形が分からなくても色と匂いと音にあふれた世界で明るく暮らすさっちゃん。でも
文字が必要な社会では?
さっちゃんの出会いでたくさんのことを考えました。
ページを開いていただけたら嬉しいです
井上朱實
身近な本屋さんや 楽天や Amazonでも販売しています。 定価1500円
糖尿病の話をしよう 第4話
合併症で何がおきる?
高血糖が長く続くとさまざまな臓器に障害がでます。糖尿病の慢性合併症といいますが、血管の変化が進行しておきた一種の後遺症で、元には戻りません。
食後に200を超す血糖が10年以上続くと、細い血管の閉塞が始まり、目(網膜症)・腎(腎症)・神経(神経障害)が徐々に障害されます。眼科での網膜の検査で血管の変化が見えて糖尿病の体への影響の履歴がわかります。病変が網膜内ならば眼は見えています(ただし網膜の中心部がむくむと視力が低下します)。網膜の周辺(硝子体・虹彩=カメラの絞りにあたる膜)に病変が及ぶと突然視覚が低下することがあるので見える間に眼科に行きましょう。網膜症の程度、眼科で測った視力、自分で感じる視力は一致しないことがあります。
腎症は蛋白尿から始まり尿毒症に進行します。血糖に加えて血圧を抑え、塩分制限などの食事療法と適度な休養で進行を遅らせることができます。神経障害は足先のしびれから始まり、進行すると体調の変化への対応が鈍くなるので、異変を感じたら早めに主治医に相談してください。
太い血管に起きる動脈硬化は誰でもありますが、血糖が少し高めであることが積み重なって進行が早くなります。脳梗塞・心筋梗塞・足壊疽は糖尿病が軽症でも増えるようです。高血圧・高脂血症(脂質異常症)・肥満・喫煙など動脈硬化の促進因子があると、糖尿病の影響がより大きくなります。
無症状で糖尿病にきづかず、合併症が悪化して診断される方もいます。定期健診を受けておきましょう。(2019年7月24日掲載)
糖尿病の話をしよう 3話
治療の目標は何?
糖尿病で起きているインスリンシステムの変化をもとに戻す方法は、今はまだありません。では糖尿病の治療は何のために、何を目印にするのでしょうか。
インスリン作用が欠乏して細胞がエネルギーの枯渇状態になり血糖が上がると、筋肉は衰え活力が落ちます。細胞内からエネルギーがあふれて血糖が上がると血管が障害されます。
糖尿病がない人では血糖はいつ測っても60~140mg/dl(緊張状態で糖分を一度にとったら200近くに上がることもある)です。空腹時で126mg/dl、食後で200mg/dl
を超える状態を糖尿病とよびます。この値は目や腎臓の細い血管の障害が増え始める高さです。
血糖は分単位で動くので、血糖の変動幅を推定する指標としてグリコヘモグロビン(HbA1c)が使われます。赤血球の中のヘモグロビン(酸素を運ぶ)にブドウ糖が結合したもので、1~3か月間の血糖の平均値を推測できます。
正常の血糖では5~6%です。グリコヘモグロビンが8.5%を超えると、筋肉が衰えて体力を落とします。7.5%をこえると細い血管の病気(合併症)が進んできます。低血糖を起こす危険性がない場合は、7%未満から6.5%未満を目標とします。
妊娠中は母子の健康と安全な分娩のために正常値を目標とします。健康寿命を縮めないことが一番大切な目標で、HbA1cは指標の一つです。
元気に暮らす体力と気力、低血糖をおこさない薬物の使い方があって、グリコヘモグロビンの数字が生きてくると考えます。(2019年7月17日掲載)
糖尿病の話をしよう 第2話
インスリンの作用不足から
体のエネルギー回路で、エネルギー源である血糖を細胞内に取り込み血糖を下げる働きは、インスリンシステムが担っています。インスリン作用が不足すると血糖が上昇し、糖尿病になります
1型糖尿病は数日から数年の経過で膵β細胞が消失し、インスリンがつくられなくなる病気です。ウイルス感染や免疫異常が原因と考えられ、何歳でも発症しますが、小児から思春期が中心です。病態が完成する(膵β細胞が消失する)と、インスリン欠乏状態となり、生きるためにインスリン注射が必要です。頻回におよぶ注射や、ポンプでインスリンの皮下注射をする、あるいは膵移植をします。普通は血糖に応じて自動的に分泌されるインスリンを、自分で血糖を測り必要量を考えて注射するのが1型糖尿病の日常です。自分に必要なインスリンの量と使い方を把握し、非常時に伝える力をつけておきたいです。
日本では、ほとんどの糖尿病は2型糖尿病です。インスリンの出が少ない、遅い、インスリンの効果が悪い、等のたくさんの要因が組み合わさった状態と言えます。欧米と比べて日本人はあまり肥満していなくても糖尿病になります。糖尿病になりやすい体質は遺伝します。
インスリンの作用欠乏(インスリンが十分に働かないこと)はゆっくりと進むため、体が順応して高血糖に気づかず、重篤な合併症がでてから受診される方がたくさんおられます。中年の病気と思われていますが、最近は若者にも増えています。健康診断や体調不良で受診したときに尿糖がでていたら、糖尿病の検査を受けて健康な自分を守ってください。
(2019年7月10日掲載)
医師 井上朱實
糖尿病のはなしをしよう 第1話
【糖尿病で何がおきている?】
人は食物を消化・吸収してエネルギーを得ています。エネルギーは主に血中の糖分という形で全身を巡るため、血糖は常に細胞が使いやすいレベルに調整されています。
人体はさまざまな刺激で血糖を上昇させますが、抑える仕組みはインスリンを中心としたシステムしかありません。このシステムの働きが鈍るとエネルギー回路の動きも鈍化し、細胞で利用できない糖分が余って血糖が上がってきます。
急なエネルギー摂取で全身の細胞に多量の糖分が流れ込むと、発電装置(ミトコンドリア)が働き過ぎて細胞を傷めるので、細胞は糖分の取り込みを抑えます。その結果血糖が上がります。
血糖が上がると膵β細胞からインスリンが血中に出され血糖を下げます。食物を摂ると腸からインクレチンが出て、インスリンをたくさん出すよう応援していますが、その力は緊張(ストレス)がかかると低下します
筋肉細胞は糖をよく消費するので、質の良い筋肉を維持し、しっかり使うとエネルギー回路が潤滑になります。糖尿病はエネルギーシステムの変調であり、血糖は稼働状況の指標といえます。
地球上の生物はエネルギーレベルの調整についても24時間の日内変動や季節・年の周期が遺伝子に組み込まれています。(時間遺伝子等)。
お日さまタイムにあわせた休養と活動、メリハリのある食生活を楽しんで、仲間と一緒に体を動かすことを基本に暮らしましょう。そのうえで、ご自分のエネルギーシステムの弱点に合った薬物治療ができたらいいですね。(2019年7月3日掲載)
糖尿病のある人生を生き抜いた人々
ある女医の研修録より(1996年2月)
井上朱実/著
シイーム(出版部)
仕事と病気と
糖尿病のある生活を共に生きる(1999年06月)
井上朱実/著
シイーム(出版部)
きいてきいて糖尿病のホンマ
格差社会で元気をまもる 外来からのレポート(2010年1月)
井上朱実/著
シイーム(出版部)
見えにくい世界 みえるとみえないの狭間を歩く(2011年07月)
糖尿病のリハビリ、セルフケアの自立めざして 水先案内
井上朱実/著
清水美知子(歩行訓練士)/著
著 西川みどり(メディカルワーカー・看護師)/著
シイーム(出版部)